[読み物-プロローグ-]「君だけが僕をニグロと呼んでいい」ある日本人女性からの手紙

Shiho Niimi @sviesosdaina

Shiho Niimi @sviesosdaina

 

「“9.11、3.11、BLM、アメリカ大統領選。

日本に暮らす私にとっても全ての根本は繋がっている“ 」

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2001年,9.11の最中、ジョージア州の小さな町の高校に留学し、その後、その町を再訪し続けた日本人女性、シホ。

日本に帰国後、彼女は映像や写真を通して生きとし生けるもの、この世に存在する全てのものたちの声や生命の有り様を届ける活動をライフワークとして来た。一児の母となった現在、作品作りは休憩中。夫と1歳になりたての男の子ととともに東京に暮らしている。

 

彼女が映像を添えたという楽曲「ともだちを待っている」[ by うつくしきひかり] に出合ったのは、東日本大震災3.11が今年[2021年]で10年を迎えるという春先。

当初、わたしは、アメリカにいながらその日のために、少しでも誰かしらの光の杖になるようなことができないかと考えていた矢先だった。

 

しかし、3.11から幾度かの新月と満月を迎え、ようやく、この楽曲を紹介するに至る。

しかも、予定は大きく変更し、映像を作った彼女が私に宛てた、超個人的な長い手紙をその楽曲映像とともにここに紹介したいと思う。

 

最初に断っておくと、この楽曲はあの3.11の日のことを歌ったわけでも、映像には被害にあった東北の人や景色が出てくるわけでもない。なのに、当時、私の中で暗中、手繰りで寄せようとしていた光がその画面から伝わってきたのである。10年前の個人的な記憶や感覚が蘇るとともに、いまもまたあらゆるフォームの不安定さの中にいる世界中の人々を思い起こさずにはいられなかった。

 

彼女は、3.11の直後、(東京エリアのメイン電力である原子力発電所の爆発の影響による電力不足を補うために行われた)計画停電の合間にこの映像の編集作業をしていたという。

 

奇しくも曲のタイトルは『ともだちを待っている』。

当時、多くの人が遠くの誰かを思いながら、ほんの近くの未来に不安や恐れを募らせていた。そんな不安定な渦中に、どんな気持ちでこの映像を編集したのだろう。

「入ってくる情報やスクリーン越しにはあらゆる負のエネルギーが満ちていると感じたので、どうにかして前を向いたり、心に光が差し込むようなものが作りたいと思いながら編集したの」と彼女はいう。

制作にあたって、依頼主である楽曲制作者から彼女へのリクエストは一切、なかった。あえていうならば「音に映像を合わせないで」ということのみ。 

そこで彼女はこう解釈した。


この曲が物語っていること(*歌詞参照)を“ある人が見ている光”としてドキュメントできないだろうか。

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昨年、大統領選の直後に彼女がふとこぼした言葉が記憶の中から妙に湧き上がってきた。

 「私にとっては3.11も BLMも2020年の大統領選も、遡ればジョージア州で過ごした2001年の9.11前後もずっと、ずーっと繋がっている一つの問題であり、意識である」と。


20年に渡り、ジョージア州に通い続けたとはいえ、日本に暮らし続ける彼女から、この言葉が漏れ出たのは意外だった。そして私は、その言葉の真意を尋ねずにはいられなかった。


その返答が、今回3編に分けて紹介する彼女からの長いメールである。

 

日本人だからとホストマザーに床で寝ることを迫られたこと。

発砲事件を間近で目撃したこと。そのトラウマとの対峙。

クリスチャンスクールで唯一の黒人のクラスメイトから投げかけられた衝撃の一言。

イラク戦争から帰還して様変わりしていく友人。

誰に投票しようと私はあなたを愛している、と発したジョージアの旧友。

Etc.  

 

私がアメリカに暮らして10年が過ぎても、もしかしたら何年住もうが知りえなかった、どこか遠くのアメリカが一気に「自分ごと」となった。

  

自分が受けたことは差別だと認識できても、彼らは決して悪者ではない。そんなシホの高校時代から約20年の回想。

ライターでもジャーナリストでも活動家でもない一個人がジョージア州での日々を起点に同世代の友人、その家族とやり取りをかわし続けてきた記録と葛藤、変遷。


そんな彼女の生の声を、AAPI ヘリテージマンス(毎年5月)の最後に、シェアしたいと思う(*日本語版は6月になりました)。

日本人から見たアメリカの日常の一片を、アメリカで生まれ育った人たち、そして私のように大人になってアメリカに暮らし始めた人たちが彼女の言葉を聞いてどのように感じるのだろう、という実験的試みでもある。

 

この度、掲載にあたって協力してくれた、シホとその家族やジョージア時代からの友人に感謝します。

 

個人の一石の意識や行動が、時空を超えて遠くの誰かに及ぼす可能性を私は大いに信じながら。

 

「ともだちを待っている」 うつくしきひかり

 

中川理沙(vo,pf) MC. Sirafu[stealpan]

英訳 mmm

 

実りは嘆きと ともだち なのかな

大事なはなしは胸にしまうよ

外の景色と きみの決まりが 変わるまで

 

ことばときもちを

ふたつ並べてお話しさせたら

仲直りできるかな

外の世界が 輝きだすまで

 

雨が降っている

水が跳ねている

雨が降っている

きみが晴れていく

 

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