[インタビュー]所持品は自転車とコーヒーだけ。「僕らはお金から解放されて生きていけるのか」❹

日本人自転車冒険家、西川昌徳(以下、マサ)へのロングインタビューPart4は日本から韓国へと舞台を移したフリーコーヒー。

今回のハイライトはショートドキュメンタリー動画! 作成、編集はフリーハガーの桑原功一(こーいっちゃん )という、奇しくも同国で “フリー“を掲げるふたりのタッグの協力が叶った。

日韓の間には長きに渡って政治や歴史問題にまつわる論争が耐えず、互いに嫌悪、牽制の姿勢が横たわっていることが両国で報道されている。

だが、実際に韓国で暮らす人々はどう感じているのだろう?

メディア越しではなく、マサのフリーコーヒーを介して韓国に生きる人々の生来た声がじんわりと伝わってきます。

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 きっかけは”身近な国について調べてみよう”というテーマで行った授業中、子どもたちからあがったこんな発言からだった。

「韓国の人って日本人嫌いらしいよ」

「意地悪ってのも聞いことあるよ」

子どもたちが憚らずも口々にこう言い放つことを目の当たりにして、マサは頭を抱えた。

行ったこともない韓国。会ったこともない韓国人。

なのに、決め付けるように悪者扱いする。

そんな思考に彼らを導いたのは一体、誰(何)なんだろう?

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それはメディアであり、SNSであり、周りの大人だ。

ならば、とマサは韓国行きを決めた。身をもって体験してきたことを、子どもたちに伝えようと誓ったのだ。

今回は最低限の所持金をもって。だが、自転車とともに路上でコーヒーを振舞うことには変わりない。

新橋駅でお金を全部預けた時と同様に、当初はめちゃくちゃ、緊張したし怖さもあった、と苦笑いで自白するマサ。

選んだのは韓国一の大都市、ソウルの街中。

果たして、フリーコーヒーの試みは受け入れられたのか。

その模様はぜひこちらの動画で確かめてみて欲しい。

*日英韓国語の字幕付きです。ぜひ異なる言語を母国語に持つ家族や友達と見てみてください。

*以下の文章は、ぜひ上記の動画を見てから読んでみてください。


補足をすると、マサは韓国でどんな反応があるか、事前に全く予測できていなかったし、渡航前、歴史や政治について改めて学べば学ぶほど、もやもやとした心の塊は大きくなるばかりで、自分が韓国でも日本と同じように受け入れられる、という安心材料など微塵もなかった。

しかし、不安や恐れがあったからこそ、韓国の人々が時に少しずつ、時にダイレクトに心を開いてきたからこそ、心の奥底に一生居座るだろう心の貯蓄を敏感にキャッチし、大いに感謝できたのだ。


世界一周。夢やゴール。挑戦の連続。

過去数年で、このような派手で壮大な常套句からどんどん抜け出て行ったマサの最大の目的は、高山登頂でも秘境の制覇でもなく、日本、韓国、そして世界に暮らす市井の人々に会いにいき、そこで交わされる心の機微をつぶさに感じ、伝えることと変遷を遂げている。

目の前で淹れる無料のコーヒーと一台の自転車を介して、国や言語や人種の境界を取っ払って人の心と向き合うことがいかに財産になるか、それを体得し続けているのだ。

ーーー

2020年以降、より一層、あらゆる分断が顕になっているアメリカに暮らす日本人として、私はマサのように個々の心と、偏見なしにまっさらな地平線上につながる旅をできているだろうか、と改めて考させられずにはいられない。


肌の色が違う。宗教が異なる。相入れない政治思想を持つ。


そんな人たちを遠巻きから一括りにして、無意識にもジャッジして区別していないだろうか。

自分の心の小さな思い込みや違和感に、いちいち耳を傾けることで私たちは日常の冒険へと飛びだせるのかもしれない。

そして、その些細な気づきをどう昇華させられるか。

またもマサにヒントをもらった。

2020年5月。

冒険家としては致命的とも言える、どこにも旅に出られない状況を過ごしていた最中、日本政府が応じた援助策は「国民一人につき布マスク二枚を配る」というもの。常に穏和なマサでも、流石に憤りを感じずにはいられなかったという。

しかし、そこで彼が取った策とは、決して怒りの声を上げることではなかった。

むしろ、そのエネルギーの矛先は真逆を貫いていた。

「希望した全ての人に自分で焙煎したフリーコーヒー(豆)を送ったんだ。自分の体は移動できなくても、ぼくの思いを込めたコーヒーが代わりに旅をして伝えてくれる」

豊かさの循環を介したアンチテーゼ。

何百袋ものマサの分身が、日本中のみならず、フリーコーヒーをおこなった韓国、そして香港にも渡った。

             ー終ー 

PROFILE

西川昌徳

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自転車冒険家。大学卒業後から自転車での旅を始め、現在、37カ国以上、97,200キロメートル以上を完走。

2018年からは#dailyFreebicyclecoffee をはじめ、フリーコーヒーを振舞いながら冒険をするスタイルに。19年からは同プロジェクトで韓国、翻刻にも渡る。

また講演、海外からの中継授業、子どもたちとの自転車の旅などを行うほか、世界の路上からリアルな人々の思いや状況を伝えている。


https://www.earthride.jp/

IG @earthride.jp


 

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