[読み物:エピローグ]『ともだちを待っている』
Shiho Niimi @sviesosdaina
長い記憶の旅を一緒にさせてもらって感謝を述べたいのは私の方である。
シホが何年も誰にも言えなかった傷を、今回、インターネットの海原で公開してもいいと後押ししてくれた理由のひとつに、マーチンルーサーキングジュニア牧師による名言がある。
「最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、善人の沈黙である」
The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people.
相手を制するための発言ではなく、相手と理解し合うために沈黙を破る。違うことを責めるのではなく、交わる未来を探し続ける。それもまた光差す方へと向かう彼女なりの行動である。
光。
そのキーワードはシホの中だけではなく、この楽曲を作ったアーティスト「うつくしきひかり」のMC sirafu氏とも通ずる。
彼は今回の記事の大本となった『ともだちを待っている』が生まれた背景をこう振り返る。
「当時、個人的な事情で精神的にもふさぎ込んでいた時期で。
部屋に一人暗い気持ちでいた時に、外では強い雨が降っていて。孤独感に包まれながら、一気にギターを爪弾いて作った記憶があります。
でもそれは自分の暗澹さを物語るものではなく、どこかで救いを求めている気持ちが表れていたのかもしれません。
とは言え「誰か」に救いを求めていたわけではなく。
漠然とした不安を「ともだち」と表現したのでしょう。
曲が出来上がった時、大雨から一転、外がめちゃくちゃ晴れて、窓から光が差し込んでいた事を記憶しています。
「うつくしきひかり」というバンド名もまた、当時、障害のある方とプールに同行する仕事をしたというシラフ氏自身の日常体験から生まれた。
水中から見上げた景色に光が見事に反射していて、ふと「美しき光」というワードが浮かんできました。
漢字ではなく、あえてひらがな表記にしたのは、完全なる無垢な表現を目指したからです。
このレターに加え、ここ数ヶ月の間、シホと私は過去と今現在から湧き出る記憶と記録と気持ちをシェアしあっていた。
その間に、アジア人を狙ったアトランタの銃撃事件があり、あらゆる差別は減少するどころか、ますます顕著になりつつある。
しかしそれは、いままで黙視され続けて来た問題が浮き彫りになっただけとも言える。
うちなる怒り不安、孤独を、その矛先を誰かに向けるのではなく、
その感情を思いやりや共存、理解に変えて行動する。
『友達を待っている』の歌詞を借りれば
その過程を経ながら
「外の世界が輝きだ」せるのかもしれない。
きみが、そして私たちの世界が次第に「晴れていく」のかもしれない。
楽観的な性善説に生きているのも承知の上で、この手紙を今日、公開したのは何よりも私個人自身へのリマインドであり、アファメーションであることをお許しください。
光とともに。
2021 AAPI月間の最後の日に。
Sakiko- Soen